第19回 任せてはいけない仕事
戦略と心理学で見る「線を引く」という経営判断
任せる。
やらない。
手を出さない。
ここまで書いてきて、
こう思った人もいると思う。
「じゃあ、何でも任せたらいいのか?」
答えは、はっきりしている。
任せてはいけない仕事は、確実に存在する。
この線を引けないと、
役割分担はうまく回らない。
これは根性論でも性格論でもなく、
戦略と心理学で説明がつく話だ。
① 優先順位を決める判断は任せない
どれを先にやるか。
どれを後回しにするか。
どれをやらないか。
この判断は、任せてはいけない。
孫子兵法に、こうある。
将は智・信・仁・勇・厳なり
将=全体を率いる者は、
状況を読み、決断し、統制する役割を持つ。
優先順位とは、
全体を俯瞰しないと決められない仕事だ。
現場の一部を見ている人に、
全体最適の判断はできない。
これは能力の差ではなく、
視点の差。
② 「やめる」判断を任せると組織は消耗する
この作業をやめる。
このやり方を捨てる。
この案件は断る。
この判断も、経営者の仕事だ。
行動心理学では、これを
サンクコスト効果という。
人は
「ここまでやった」
「もったいない」
という理由で、
損だと分かっていても続けてしまう。
現場に近い人ほど、
この罠にハマりやすい。
だから、
やめる判断は任せない。
③ お金の判断は絶対に任せない
お金に関しては、特にシビアに見ている。
勝手な値引きは、させない。
自分が値引きをする場合、
それは会社が損をしているのではなく、
自分が身銭を切って補填しているという判断だ。
これは
・自分の判断
・自分の責任
・自分の負担
この3点がそろって、初めて成立する。
ここで関係してくるのが
プリンシパル=エージェント理論。
会社(プリンシパル)の資産を、
代理人(エージェント)が
自分は痛まずに動かせてしまう状態は、
構造的なリスクになる。
強い言い方をするなら、
会社の利益を勝手に削る行為は、
業務上横領に近い。
代表取締役であっても、
それは「一番上」ではなく役割。
会社に雇われ、
経営を任されている立場だ。
だから、会社に損をさせてはいけない。
④ 接客は「配置」の問題であって努力論ではない
接客も、同じ考え方だ。
田舎に来て感じるのは、
正直、接客レベルは低いという現実。
労働人口が少なく、
人を選べない事情があるのも分かる。
でも、
接客に向いていない人を
接客に配置することはしない。
これは行動心理学でいう
ミスマッチによるストレス増幅。
本人もつらい。
お客様も不快。
現場の空気も悪くなる。
向いていない場所に置くことは、
優しさでも配慮でもない。
⑤ 任せすぎると起きる「責任の拡散」
全部任せる。
みんなで決める。
一見、民主的に見えるが、
これは危険だ。
行動心理学では
責任の拡散と呼ばれる。
誰の判断か分からない状態では、
誰も責任を取らなくなる。
だから、
最終責任が発生する判断は任せない。
作業は任せる。
判断の入口と出口は、自分が持つ。
⑥ ランチェスター戦略で見る「任せない仕事」
ランチェスター戦略では、
弱者は一点集中が基本。
人も資本も限られている側が、
経営者までプレーヤーになったら、
戦場が一気に広がる。
経営者が集中すべき一点は、
・判断
・線引き
・設計
ここを手放すと、
弱者は必ず負ける。
まとめ
任せていい仕事は多い。
でも、任せてはいけない仕事もある。
優先順位。
やめる判断。
お金。
接客の配置。
最終責任。
これらは、
戦略と心理学の両方から見ても、
経営者の仕事だ。
任せる勇気と、
任せない覚悟。
この線を引けるかどうかで、
組織は安定もするし、壊れもする。
自分はそう思う。

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