前回の記事で、
「相場に価格決定権を預けるな」という話を書いた。
ただ、ここで一つ、はっきりさせておきたい。
私は、価格を上げろ、という話をしているわけではない。
価格を上げる・上げないの前に、
まず考えるべきことがある。
■ 「企業努力」という言葉に逃げていないか
一般的に「企業努力」という言葉は、
とても便利に使われる。
しかし現実には、
- 気合
- 根性
- 我慢
- 長時間労働
こうしたものを、
きれいな言葉で煙に巻いているだけの場面も多い。
本来の企業努力とは、
精神論ではない。
■ 見直せるところは本当にないのか
資材。
燃料。
肥料。
作業工程。
段取り。
落ち着いて見直せば、
改善できる余地は、実はまだまだある。
そしてもう一つ重要なのが、
機械や設備への投資による省力化だ。
「高いから無理」
「回収できるか分からない」
そう思う気持ちは理解できる。
ただ、その投資は
作業を楽にするためのものではない。
■ 投資とは「考える環境を買うこと」
省力化によって生まれるのは、
単なる余暇ではない。
- 段取りを見直す時間
- 次の一手を考える時間
- 数字を落ち着いて見る環境
つまり、
経営を考えるための余白だ。
そう考えれば、
一見高額に見える投資も、
結果としては安い。
■ 底なし沼で足踏みするな
経営が苦しいときは、
よく「底なし沼」に例えられる。
そこで立ち止まって足踏みをしても、
必死に腕を振っても、
沈まないために耐えているだけで、前には進まない。
だったら、
水の上を進める道具を持った方がいい。
忍者が沼を渡るために使った
**水蜘蛛(みずぐも)**のような道具だ。
一瞬で陸地に着く魔法の道具ではない。
しかし、沈まずに前へ進める。
■ 道具は一つじゃない
沈まないための選択肢は、一つではない。
水蜘蛛でもいい。
お金があるなら、サーフボードでもいいし、ボートでもいい。
沈まず、少しずつでも前に進めるなら、何でもいい。
運が良ければ、
近くに倒木があって、それにつかまって渡れるかもしれない。
それならコストもかからず、結果として一番いい選択だ。
重要なのは、
何を使うかではない。
沈まない選択をするかどうかだ。
選択肢を比較し、考え、選ぶ。
熟考する時間なんて無い。急がなければ沈む。
だからこそ、冷静に、的確に。
間違ったと気づいたら、失敗はすぐ認める。
誰かを責める時間や、後悔する時間は、もっと後でいい。
ひたすら、格好悪く、的確に、もがき、足掻く。
それ自体が、経営の楽しさでもある。
■ 買ってはいけないものがある
一つだけ、はっきりしていることがある。
底なし沼にいるときに、
助けを呼ぶためのメガホンや拡声器を買ってはいけない。
どれだけ大きな声で叫んでも、
沈んでいる状態は変わらない。
先にやるべきは、
声を上げることでも、同情を集めることでもない。
まず沈まないこと。
沈まずに前へ進める状態を作ってから、
初めて次の判断ができる。
■ 「毎年トントン、少し赤字」という言葉への違和感
「毎年トントンです」
「少し赤字ですが、生活は何とか回っています」
こういう言葉を聞くたびに、正直、疑問に思う。
なぜ農地を広げないのか。
なぜ段取りや規模を見直さないのか。
今が限界。
品質が落ちる。
体力的にしんどい。
言っていることは分かる。
農業がしんどいことも、年齢や体力の問題があることも事実だ。
ただ一方で、
現実として休耕地は増え続けている。
「今で限界」と言いながら、
農地が余っていく状況と、話が逆行していないか。
本当に「少し赤字」なのであれば、
作業効率や段取り、規模、設備の使い方を見直せば、
黒字に転ぶ余地は十分にあるのではないか。
■ 感覚ではなく、数字で考える
少なくとも、
- 損益分岐点はどこか
- 今の面積で、どこまでやれば黒字になるのか
- どの作業が一番コストを食っているのか
これを感覚ではなく、
数字で頭に落とし込むことは、
経営者として最低限必要だと思っている。
農業がしんどいからこそ、
「何となく続ける」ことの方が、
結果的に自分も、次の世代も苦しめる。
この話は、
以前書いた後継者や引き際の話にも、まっすぐつながっている。
■ 頑張っている自分を、まず疑え
努力そのものを否定したいわけではない。
ただ、
「頑張ったけど上手くいかない」という言葉を聞くと、
一つだけ確認したくなる。
その努力は、どこに向かっていたのか。
地図も持たず、
方向も定めず、
ただ腕を振っていただけなら、
それは前進ではない。
努力には、
正しい方向が必要だ。
■ まとめ
前回は、
「相場に価格決定権を預けるな」という話を書いた。
今回は、
「正しい方向に進むための努力をしろ」という話だ。
価格を上げる前に、
声を上げる前に、
我慢を美徳にする前に、
まず沈まない選択をしろ。
努力は大切だ。
しかし、方向を間違えた努力ほど、
残酷なものはない。
経営とは、
沈まず、進み、修正し続けることだと思っている。


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