第11回|小規模だから無理、の前に考えてほしいこと

小規模経営が不安から手を広げて自滅する構図と、戦う場所を絞り一点突破で勝ちに行く弱者戦略を対比したイメージ。孫子兵法やランチェスター戦略、行動心理学に基づく経営の考え方を表している。

第11回|小規模だから無理、の前に考えてほしいこと(時系列修正版)

これまでの回で、価格決定、努力の方向、借金と回収について書いてきた。
その流れの中で、必ず出てくる言葉がある。

「うちは小規模だから無理」
「大規模じゃないとできない」

今日は、この言葉について、一度きちんと整理したい。


■ 新規就農者のほとんどは、小規模スタートである

まず大前提として、はっきりさせておきたい。

新規就農者のほとんどは、小規模から始まる。

いきなり大きな面積を借りられることは、ほぼない。
こじんまりしたスタートを“選ばされる”のが現実だ。

地主、地域、役所、担当農業委員、農業委員会。
それぞれの立場から見れば、初心者にいきなり大きく貸して、途中で辞められる方が困る。
慎重になるのは当然だ。


■ 小規模は「制限」であって「評価」ではない

小規模で始めることは、能力が低いという評価ではない。
信用がまだ積み上がっていない段階だから、制限がかかっているだけだ。


■ 不安になると、人は逆走する

売れない時ほど、不安で「やること」を増やしたくなる。
飲食業ならメニューが増える。農業なら品目が増える。

でも広げれば広げるほど、

  • 手間が増える
  • ミスが増える
  • ロスが増える
  • 現場が散らかる

結果として経営が圧迫される。

これは前進ではない。典型的な逆走だ。


■ これは孫子兵法とランチェスターの話

孫子兵法で言えば、「虚を突き、実を避ける」
ランチェスターで言えば、「弱者の一点集中主義」

弱者は、戦う場所を変える。
広げるのではなく、絞って勝つ。


■ コンビニ業界に見る、弱者の戦い方

セブンイレブンはトップ。
2位以下が同じ土俵で同じ戦い方をしても勝てない。

そこでローソンは戦場を分けた。

  • 通常のローソン
  • ローソンストア100(価格ニッチ)
  • ナチュラルローソン(価値ニッチ)

トップとガチンコでやらず、ニッチに分解して戦っている。


■ どん底で学んだ、弱者の戦い方

ここからは少しだけ自分の話をする。
これは自慢ではなく、弱者でも勝ち筋は作れるという実例の話だ。

20年近く前、飲食業でどん底を味わっていた頃。
30坪の飲食店で、年商2,000万円すら夢だった。

そこでランチェスター戦略と孫子兵法を必死で学んだ。
努力ではなく、戦い方で結果が変わる。そう腹落ちした。


■ 店内の限界を認めたから、前に進めた

店内営業だけでは限界が見えていた。
回転が落ちると、年商3,800万円あたりで運に左右され始める。

だから店内で戦うのをやめ、店前でテイクアウトを始めた。
これが結果的に、店内売上を上回った。


■ 250円にした理由は「鬼回転」のため(当時の判断)

テイクアウトは客単価250円。
普通なら280円や290円、あるいは789円みたいな値付けもできる。

でも250円にした。理由は単純で、鬼回転のため。

  • バイトでも計算しやすい
  • お釣りが簡単でミスが減る
  • 会計が詰まらず、行列が捌ける

そして小銭が増えると、入金にも両替にも経費がかかる。
「小銭は無料じゃない」と体で分かっていた。

これは安売りではない。
仕組みを生かすための値付けだった。


■ 後から分かった。「これ、行動心理学の話だった」(掘り下げ版)

その後、私は行動心理学を学びに行った。
理由は、「自分がやってきたことの正体」を言語化したかったからだ。

学んで腑に落ちた。

280円、290円、1980円のような価格は、
いわゆる 端数価格効果(心理的価格設定) と呼ばれる。

人は価格を“計算”しているようで、実はほとんどの場合、
左端の数字(アンカー)で判断している。

2000円より1980円の方が安く感じるのは、
「1980円=2000円未満」という情報だけを先に掴むからだ。
細かい差額を理屈で処理しているわけじゃない。

ただ、ここで重要なのは、端数価格は万能ではないということ。

端数価格効果が強いのは、
じっくり比較して買う場面や、
“お得感”を演出したい場面だ。

一方で、テイクアウトのように回転が命の商売は違う。

私が250円で狙ったのは、
安く“見せる”ことではなく、速く“動かす”ことだった。

ここで出てくるのが、認知負荷(Cognitive Load) という考え方だ。

人は、

  • 計算が必要
  • お釣りがややこしい
  • 判断に一瞬迷う

こうした“脳の負担”が増えた瞬間、
行動のスピードが落ちる。ミスも増える。

280円や290円は「安く見える」かもしれない。
でも会計は遅くなる。お釣りも増える。小銭も増える。
行列が詰まった瞬間に、売上は落ちる。

だから250円にした。

  • 1000円=4個
  • 500円=2個
  • 250円=1個

誰でも一瞬で理解でき、現場が詰まらない。
これは値下げではない。
“処理能力”を最大化するための価格設計だった。

端数価格は「印象を変える武器」。
250円は「行動を速くする武器」。

同じ値付けでも、狙っている効果はまったく違う。
それが行動心理学として整理できたのは、大きかった。

商売は「単価×客数」だけじゃない。
「処理速度×ミスの少なさ×行列の詰まりにくさ」も、売上を決める。


■ Xで言っている「仕組み」とは、これだ

Xで「仕組み、仕組み」と書いているが、精神論ではない。
人がどう動くかを前提に、ミスしにくく回る形に設計すること。それが仕組みだ。

■ 横着の極みこそが、究極だと思っている

個人的には、
横着の極みこそが究極だと思っている。

これ、誤解されやすいが、
楽をしたい=手を抜きたい、ではない。

「これ、めんどくさいな」
「これ、どうにかならんのか」

そういう楽をしたいという強い思いの先に、
段取りや仕組みが待っていると思っている。


■ 楽したいからこそ、考える

楽をしたい人間は、
同じことを何度も繰り返すのが苦手だ。

私はまさにそのタイプで、
当たり前にルーティンを回すことが、正直得意じゃない。

だからこそ、

  • どうすれば考えなくて済むか
  • どうすれば迷わなくて済むか
  • どうすれば毎回同じ判断をしなくて済むか

そこを突き詰めて考える。


■ 仕組みは、性格の弱点を補うためのもの

仕組みは、
優秀な人間を前提に作るものじゃない。

自分の弱さや苦手を前提に作るものだと思っている。

  • 忘れる
  • 面倒くさがる
  • 集中が続かない

それでも回る形にしておけば、
毎回「頑張らなくても」結果が出る。


■ だから、仕組みは横着から生まれる

横着だからこそ、
人は考える。

考えるからこそ、
段取りが生まれる。

段取りがあるからこそ、
仕組みになる。

私はずっと、
楽をするために、必死で考えてきただけだ。


■ 仕組みは、努力を否定しない

最後に一つだけ。

仕組みを作るというのは、
努力を否定することじゃない。

努力の使いどころを間違えないための装置だ。

頑張る場所を減らし、
考える場所を増やす。

それが、私にとっての「仕組み」だ。


■ まとめ

小規模は不利だ。これは事実。
でも、小規模だからこそ戦い方がある。

孫子で言えば、虚を突き実を避ける。
ランチェスターで言えば、一点集中。
そして現場でそれを成立させるのが、仕組みであり、行動心理学の領域でもある。

不安な時ほど、広げるな。
削れ。絞れ。
そこからしか前には進めない。

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