第9回|価格を上げる話はしていない。正しい方向に進むための努力の話

努力の方向を誤ると沈み、道具と地図を持てば前進できることを比喩的に表した経営判断のイメージ

前回の記事で、
「相場に価格決定権を預けるな」という話を書いた。

ただ、ここで一つ、はっきりさせておきたい。

私は、価格を上げろ、という話をしているわけではない。

価格を上げる・上げないの前に、
まず考えるべきことがある。


目次

■ 「企業努力」という言葉に逃げていないか

一般的に「企業努力」という言葉は、
とても便利に使われる。

しかし現実には、

  • 気合
  • 根性
  • 我慢
  • 長時間労働

こうしたものを、
きれいな言葉で煙に巻いているだけの場面も多い。

本来の企業努力とは、
精神論ではない。


■ 見直せるところは本当にないのか

資材。
燃料。
肥料。
作業工程。
段取り。

落ち着いて見直せば、
改善できる余地は、実はまだまだある。

そしてもう一つ重要なのが、
機械や設備への投資による省力化だ。

「高いから無理」
「回収できるか分からない」

そう思う気持ちは理解できる。

ただ、その投資は
作業を楽にするためのものではない。


■ 投資とは「考える環境を買うこと」

省力化によって生まれるのは、
単なる余暇ではない。

  • 段取りを見直す時間
  • 次の一手を考える時間
  • 数字を落ち着いて見る環境

つまり、
経営を考えるための余白だ。

そう考えれば、
一見高額に見える投資も、
結果としては安い。


■ 底なし沼で足踏みするな

経営が苦しいときは、
よく「底なし沼」に例えられる。

そこで立ち止まって足踏みをしても、
必死に腕を振っても、
沈まないために耐えているだけで、前には進まない。

だったら、
水の上を進める道具を持った方がいい。

忍者が沼を渡るために使った
**水蜘蛛(みずぐも)**のような道具だ。

一瞬で陸地に着く魔法の道具ではない。
しかし、沈まずに前へ進める。


■ 道具は一つじゃない

沈まないための選択肢は、一つではない。

水蜘蛛でもいい。
お金があるなら、サーフボードでもいいし、ボートでもいい。
沈まず、少しずつでも前に進めるなら、何でもいい。

運が良ければ、
近くに倒木があって、それにつかまって渡れるかもしれない。
それならコストもかからず、結果として一番いい選択だ。

重要なのは、
何を使うかではない。
沈まない選択をするかどうかだ。

選択肢を比較し、考え、選ぶ。

熟考する時間なんて無い。急がなければ沈む。
だからこそ、冷静に、的確に。

間違ったと気づいたら、失敗はすぐ認める。
誰かを責める時間や、後悔する時間は、もっと後でいい。

ひたすら、格好悪く、的確に、もがき、足掻く。
それ自体が、経営の楽しさでもある。


■ 買ってはいけないものがある

一つだけ、はっきりしていることがある。

底なし沼にいるときに、
助けを呼ぶためのメガホンや拡声器を買ってはいけない。

どれだけ大きな声で叫んでも、
沈んでいる状態は変わらない。

先にやるべきは、
声を上げることでも、同情を集めることでもない。

まず沈まないこと。

沈まずに前へ進める状態を作ってから、
初めて次の判断ができる。


■ 「毎年トントン、少し赤字」という言葉への違和感

「毎年トントンです」
「少し赤字ですが、生活は何とか回っています」

こういう言葉を聞くたびに、正直、疑問に思う。

なぜ農地を広げないのか。
なぜ段取りや規模を見直さないのか。

今が限界。
品質が落ちる。
体力的にしんどい。

言っていることは分かる。
農業がしんどいことも、年齢や体力の問題があることも事実だ。

ただ一方で、
現実として休耕地は増え続けている。

「今で限界」と言いながら、
農地が余っていく状況と、話が逆行していないか。

本当に「少し赤字」なのであれば、
作業効率や段取り、規模、設備の使い方を見直せば、
黒字に転ぶ余地は十分にあるのではないか。


■ 感覚ではなく、数字で考える

少なくとも、

  • 損益分岐点はどこか
  • 今の面積で、どこまでやれば黒字になるのか
  • どの作業が一番コストを食っているのか

これを感覚ではなく、
数字で頭に落とし込むことは、
経営者として最低限必要だと思っている。

農業がしんどいからこそ、
「何となく続ける」ことの方が、
結果的に自分も、次の世代も苦しめる。

この話は、
以前書いた後継者や引き際の話にも、まっすぐつながっている。


■ 頑張っている自分を、まず疑え

努力そのものを否定したいわけではない。

ただ、
「頑張ったけど上手くいかない」という言葉を聞くと、
一つだけ確認したくなる。

その努力は、どこに向かっていたのか。

地図も持たず、
方向も定めず、
ただ腕を振っていただけなら、
それは前進ではない。

努力には、
正しい方向が必要だ。


■ まとめ

前回は、
「相場に価格決定権を預けるな」という話を書いた。

今回は、
「正しい方向に進むための努力をしろ」という話だ。

価格を上げる前に、
声を上げる前に、
我慢を美徳にする前に、

まず沈まない選択をしろ。

努力は大切だ。
しかし、方向を間違えた努力ほど、
残酷なものはない。

経営とは、
沈まず、進み、修正し続けることだと思っている。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次