黒字なのに黒字として扱われない落とし穴。
圃場拡大は「初期投資の始まり」です。
「黒字なのに通らなかったんです…なぜ?」
これは、私自身が真正面からぶつかった“落とし穴”です。
結論から言います。
■ 新規就農の“黒字”と、公庫が見る“黒字”は別物。
ここを理解していないと、必ずどこかでつまずきます。
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■ ① 私は「実質黒字」でした。でも落ちました。

実際の私は、営業的には黒字でした。
売上も伸びていたし、経営自体は前に転がっていた。
にもかかわらず、就農資金の審査では
「黒字扱いできない」 という判定。
正直、当時は納得出来ませんでした。
でも今は理由が分かっています。
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■ ② 圃場が増えるたびに初期投資が再発する

一般のイメージでは、
「初期投資は最初の一回だけ」
でも、現実はまったく違います。
■ 圃場を増やした瞬間、毎回“初期投資のやり直し”が始まる。
具体的には、
・獣害対策の柵
・ワイヤーメッシュ
・灌水設備
・支柱、被覆資材
・肥料や薬剤のストック増
・整地
・マルチ
・燃料
・運搬コスト
・出荷資材
・保管スペース
・人の時間
圃場が増えれば増えるほど、
“その年の黒字”を飲み込むように初期投資がのしかかる。
だから、
■ 営業(売上ベース)では実質黒字
■ でも結果としては“投資が赤字を引き戻す”
この矛盾が生まれる。
これが、
黒字なのに黒字と判定されない理由 です。
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■ ③ 公庫の“黒字”と、新規就農の“黒字”は定義が違う

ここが一番の盲点。
公庫が見ている“黒字”とは、
■「経営体が固定され、継続的に黒字を出せる状態か?」
一方、新規就農の実態はこう。
■ 圃場を固定できず、毎年拡大・変更・初期投資の再発が続く。
このズレが、審査で大きく響く。
さらに、公庫の面談では
赤字の理由を徹底的に突っ込まれます。
獣害の影響についてもそうでした。
とうもろこしの半分以上がダメになった。
赤字の金額もヤバい金額。
農業者としては
「獣害なんて起こるときは起こるし、ある程度仕方ない」
という感覚もある。
もちろん、わざと招き入れたわけでもない。
でも公庫の視点では、
■ “商品になるまでが資産”
■ “損が出ている以上、経営責任が伴う”
と言われる。(こんなにストレートには言われない)
その瞬間は悔しいけど、
言われてみれば本当にその通り。
ここで私は、
“農業の経営的感覚の黒字”と“制度ありき公庫の黒字”は全く別の概念
だと理解しました。
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■ ④ 農林水産課は理解してくれている。でも制度は動かない

ここで誤解してはいけないのは、
農林水産課の担当者はちゃんと理解してくれているということ。
圃場拡大で初期投資が再発することも、
獣害で損が出ることも、
現場の大変さも分かってくれている。
ただ──
■ 彼らが理解してくれることと、制度上の判定が変わることは別。
担当者はルールの中で動いている。
制度の枠が決まっている以上、
どれだけ話が分かっても裁量ではどうにもできない。
これは行政が冷たいわけでも、
担当者が悪いわけでもない。
ただ、
制度そのものが、現場の実態にまだ追いついていない
というだけです。
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■ ⑤ 制度が厳しいのは“誰かのせい”ではない

昔は「自治体の推薦でとりあえず貸す」時代があり、
返済不能、回収不能が増えた背景があります。
その反動で、今は制度が厳しくなっている。
だから、
■ 「昔の先輩だけ得してズルい」
■ 「今の世代だけ損してる」
そう思うのもわかりますが
むしろ逆。
■ 私たちが甘い計画を出して通ってしまったら
■ 次の世代の新規就農者のハードルはさらに上がる
農業界の為にも負の連鎖はここで断ち切るべきです。
ある意味大金を借りて再起不能になるストッパーに感謝です。
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■ ⑥ 圃場拡大は“成長”であり“数字の地雷”でもある

圃場を増やすのは嬉しいことです。
事業が広がっている実感もある。
しかし数字の世界では――
・初期投資が増える
・黒字が吹き飛ぶ
・基金計画がズレる
・公庫の黒字判定から遠ざかる
この現象が必ず起きる。
これが、
第3話で書いた“終わらない初期投資の沼”の実体。
そして私自身がつまずいたポイントでもあります。
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■ 第6話まとめ
- 営業ベースの黒字と、結果が赤に戻る構造は別
- 圃場拡大=初期投資の再発という現実
- 公庫の“黒字”と、農業の“黒字”は定義が違う
- 担当者は理解してくれているが制度は動かない
- 厳しさは過去の反動、誰のせいでもない
- 負の連鎖は断ち切るべき
- 成長ほど数字の難易度が上がる
- 私自身もここで一度止まった
■ 次回予告(第7話)
他責志向は崩壊する。
農業は“全部自責のゲーム”。逃げた瞬間に終わる。
