【新規就農シリーズ|第6話】

黒字のつもりでも初期投資が再発して赤字扱いになる新規就農の落とし穴を、穴に落ちる柴犬と公庫担当のイラストで表現した解説画像。

黒字なのに黒字として扱われない落とし穴。

圃場拡大は「初期投資の始まり」です。

「黒字なのに通らなかったんです…なぜ?」

これは、私自身が真正面からぶつかった“落とし穴”です。

結論から言います。

■ 新規就農の“黒字”と、公庫が見る“黒字”は別物。

ここを理解していないと、必ずどこかでつまずきます。

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■ ① 私は「実質黒字」でした。でも落ちました。

実際の私は、営業的には黒字でした。
売上も伸びていたし、経営自体は前に転がっていた。

にもかかわらず、就農資金の審査では
「黒字扱いできない」 という判定。

正直、当時は納得出来ませんでした。

でも今は理由が分かっています。

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■ ② 圃場が増えるたびに初期投資が再発する

一般のイメージでは、

「初期投資は最初の一回だけ」

でも、現実はまったく違います。

■ 圃場を増やした瞬間、毎回“初期投資のやり直し”が始まる。

具体的には、

・獣害対策の柵
・ワイヤーメッシュ
・灌水設備
・支柱、被覆資材
・肥料や薬剤のストック増
・整地
・マルチ
・燃料
・運搬コスト
・出荷資材
・保管スペース
・人の時間

圃場が増えれば増えるほど、
“その年の黒字”を飲み込むように初期投資がのしかかる。

だから、

■ 営業(売上ベース)では実質黒字

■ でも結果としては“投資が赤字を引き戻す”

この矛盾が生まれる。

これが、
黒字なのに黒字と判定されない理由 です。

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■ ③ 公庫の“黒字”と、新規就農の“黒字”は定義が違う

ここが一番の盲点。

公庫が見ている“黒字”とは、

■「経営体が固定され、継続的に黒字を出せる状態か?」

一方、新規就農の実態はこう。

■ 圃場を固定できず、毎年拡大・変更・初期投資の再発が続く。

このズレが、審査で大きく響く。

さらに、公庫の面談では
赤字の理由を徹底的に突っ込まれます。

獣害の影響についてもそうでした。

とうもろこしの半分以上がダメになった。

赤字の金額もヤバい金額。

農業者としては
「獣害なんて起こるときは起こるし、ある程度仕方ない」
という感覚もある。

もちろん、わざと招き入れたわけでもない。

でも公庫の視点では、

■ “商品になるまでが資産”

■ “損が出ている以上、経営責任が伴う”

と言われる。(こんなにストレートには言われない)

その瞬間は悔しいけど、
言われてみれば本当にその通り。

ここで私は、
“農業の経営的感覚の黒字”と“制度ありき公庫の黒字”は全く別の概念
だと理解しました。

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■ ④ 農林水産課は理解してくれている。でも制度は動かない

ここで誤解してはいけないのは、
農林水産課の担当者はちゃんと理解してくれているということ。

圃場拡大で初期投資が再発することも、
獣害で損が出ることも、
現場の大変さも分かってくれている。

ただ──

■ 彼らが理解してくれることと、制度上の判定が変わることは別。

担当者はルールの中で動いている。
制度の枠が決まっている以上、
どれだけ話が分かっても裁量ではどうにもできない。

これは行政が冷たいわけでも、
担当者が悪いわけでもない。

ただ、
制度そのものが、現場の実態にまだ追いついていない
というだけです。

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■ ⑤ 制度が厳しいのは“誰かのせい”ではない

昔は「自治体の推薦でとりあえず貸す」時代があり、
返済不能、回収不能が増えた背景があります。

その反動で、今は制度が厳しくなっている。

だから、

■ 「昔の先輩だけ得してズルい」

■ 「今の世代だけ損してる」

そう思うのもわかりますが

むしろ逆。

■ 私たちが甘い計画を出して通ってしまったら

■ 次の世代の新規就農者のハードルはさらに上がる

農業界の為にも負の連鎖はここで断ち切るべきです。

ある意味大金を借りて再起不能になるストッパーに感謝です。

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■ ⑥ 圃場拡大は“成長”であり“数字の地雷”でもある

圃場を増やすのは嬉しいことです。
事業が広がっている実感もある。

しかし数字の世界では――

・初期投資が増える
・黒字が吹き飛ぶ
・基金計画がズレる
・公庫の黒字判定から遠ざかる

この現象が必ず起きる。

これが、
第3話で書いた“終わらない初期投資の沼”の実体

そして私自身がつまずいたポイントでもあります。

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■ 第6話まとめ

  • 営業ベースの黒字と、結果が赤に戻る構造は別
  • 圃場拡大=初期投資の再発という現実
  • 公庫の“黒字”と、農業の“黒字”は定義が違う
  • 担当者は理解してくれているが制度は動かない
  • 厳しさは過去の反動、誰のせいでもない
  • 負の連鎖は断ち切るべき
  • 成長ほど数字の難易度が上がる
  • 私自身もここで一度止まった

■ 次回予告(第7話)

他責志向は崩壊する。

農業は“全部自責のゲーム”。逃げた瞬間に終わる。

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